医学統計ソフトGraphPad Prism9
GraphPad Prism9ではさらに多く複雑なデータを分析することが可能になり、またデータのビジュアライズとグラフのカスタマイズ機能が強化されました。
多変量データから直接バブルプロットを作成、推定プロットをともなうt検定の分析結果の視覚化、グラフへのアスタリスクの自動的な追加など、これまで以上に直観的な方法で視覚的にデータを理解できるようになっています。

GraphPad Prism9の主な新機能
GraphPad Prism9のマイナーアップグレードで加えられた機能については、下記のリリースノートをご参照ください。
Prism9.3.0リリースノート | Prism9.2.0リリースノート| Prism9.1.0リリースノート
1:40~ 主成分分析(PCA)
2:25~ バブルプロット
2:59~ t検定と推定プロット
3:54~ グラフへのアスタリスクの自動 追加
4:29~ 行の統計機能拡張 / Two-Way ANOVAの機能拡張
Cox比例ハザード回帰
Prism9.3.0より、新しい統計解析手法として、Cox比例ハザード回帰が追加されました。詳細
グラフ軸タイトル・コントロール
Prism9.2.0より、Y軸タイトルの回転と位置を指定する機能が導入されました。 詳細
カラースキームによる塗りつぶし
グラフの塗りつぶし機能に改善が加えられ、より見やすいグラフの作成が可能になりました。 詳細
グラフへのアスタリスクの自動追加
多重比較を行った後、ワンクリックでグラフにアスタリスクを追加できるようになりました。詳細
バブルプロット
多変量データテーブルから、バブルプロットを直接作成できるようになりました。 詳細
t検定による推定プロット
t検定を実行すると、検定結果の判断に有用な推定プロットが自動的に作成されます。 詳細
主成分分析
新しい統計解析手法として、主成分分析機能(PCA)が追加されました。 詳細
カテゴリ変数
多変量データテーブルの変数(列)に、文字変数を入力できるようになりました。詳細
機能強化 | 多重t検定
Prism8では、対応のないt検定のみでしたが種々の多重比較ができるようになりました。 詳細
データテーブルサイズ拡張
各データテーブルは最大1024列、サブカラムは最大512列でデータ入力が可能になりました。
機能強化 | 行の統計
行の統計で、信頼水準を任意に設定して平均値の信頼区間を算出できるようになりました。
機能強化 | 2-Way ANOVA
2-Way ANOVAで、モデルに交互作用項を含めるかどうかを選択できるようになりました。
GraphPad Prism9新機能:統計解析
Cox比例ハザード回帰
GraphPad Prism9.3より、Cox比例ハザード回帰(Cox proportional hazard model)が追加されました。多変量解析であるCox比例ハザード回帰を用いることで、さらに高度な生存時間解析を行うこと可能です。
これまで GraphPad Prism で利用できる生存分析は、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法のみでした。単変量解析であるカプラン・マイヤー法は、要因に1つの変数しか利用できないため、年齢、血圧、体重、性別など複数の要因を含めることができません。Cox比例ハザード回帰は、共変量(連続変数)や因子(カテゴリ変数)を予測変数としてモデルに組み込むことができるので、生存時間に与える複数の要因を評価することができます。

主成分分析(PCA)
GraphPad Prism9に主成分分析(PCA)が新たに追加されました。多変量解析の一つでもある主成分分析は、データからできる限り情報を排除しつつ、必要な変数を減らす「次元削減(dimensionality reduction)」の手法です。
例えば、数百から何千と異なる遺伝子発現量を、2つのグループに分けて測定する遺伝子発現の研究を行う場合、データをモデルにフィットさせるには変数が多すぎるかもしれません。しかし、いくつかの変数を選択して分析から除外することは、有益な可能性のある情報を捨てていることになります。主成分分析は情報の損失を抑え、できるだけ少ない変数に置き換えて分析を行います。
可視化の例としてPCAを2次元で表示
カテゴリー変数
多変量データテーブルで変数(列)にテキストで入力ができるようになりました。Prism9ではカテゴリー変数を、"0" と "1"として入力してエンコードする必要はありません。下の多変量データテーブル(Variable F列)のように、カテゴリ変数をテキストで入力できます。
Variable F列のカテゴリ変数は「Female」「Male」のようにテキストで入力されています。
多重t検定機能の拡張
Prism8では対応のないt検定(2標本t検定)のみでしたが、Prism9では以下の分析を実施できるようになりました。
- ウェルチの修正を伴う対応のないt検定
- 対応のあるt検定
- 比率による対応のあるt検定
- ノンパラメトリックなマンホイットニー検定
- ノンパラメトリックなコルモゴロフスミルノフ検定
- ノンパラメトリックなウィルコクソンの符号付順位和検定
GraphPad Prism統計解析機能
GraphPad Prismは専門的に統計を行うプログラムではなく、医学統計/生物統計にフォーカスしたプログラムです。医薬学分野で高い頻度で使用される統計が簡単に行えるようになっています。
XY分析
- 線形回帰
- 非線形回帰
- 3次スプライン&LOWESS曲線
- スムージング曲線
- 曲線下面積(Area Under Curve)
- デミング(Deming)回帰分析
- Row means with SD or SEM
- 相関分析
- 標準曲線の内挿
カラム分析
- t検定
- 対応のないt検定
・マンホイットニー(Mann-Whitney)検定
・ コルモゴロフ-スミルノフ(Kolmogorov-Smirnov)検定 - 対応のある t検定
・ウィルコクソン符号順位(Wilcoxon) 検定
・比率によるt検定
一元配置分散分析(One-Way ANOVA) - ネストt検定
- ボンフェローニ(Bonferroni)検定
- ダン(Dunns)検定
- ダネット(Dunnett)検定
- フリードマン(Friedman)検定
- ホルム-シダック(Holm-Sidak)検定
- クルスカルウォリス(Kruskal-Wallis) 検定
- ニューマン-クールズ(Newman-Keuls)検定
- テューキー(Tukey)検定
- バートレット(Bartlette)検定ブラウン-フォーサイス(Browne-Forsythe) 検定
- ROC曲線
- ブランド-アルトマン(Bland-Altman)検定
- 相関
生存分析
- カプランマイヤー(Kaplan-Meier) 法
- ログランク(Log-rank)検定
- ウィルコクソン(Gehan-Wilcoxon)検定
分割表分析
- フィッシャー(Fisher) の正確確率検定
- カイ二乗(Chi-Sqare)検定
- アーミテージ-コクラン(Armitage-Cochrange)検定
グループ分析
- 二元配置分散分析(Two-way ANOVA)
- 三元配置分散分析(Three-way ANOVA)
- ボンフェローニ(Bonferroni)検定
- フィッシャー(Fisher) の最小有意差検定
- ホルム-シダック(Holm-Sidak)検定
- ニューマン-クールズ(Newman-Keuls)検定
- テューキー(Tukey)検定
- 多重t検定
多変量解析
- 主成分分析
- 重回帰分析(多重線形回帰)
- 多重ロジスティック回帰
- Cox比例ハザード回帰
その他
- 列の統計
- コルモゴロフ-スミルノフ(Kolmogorov-Smirnov)検定
- ダゴスティーノ・パーソン(D’Agostino-Pearson)検定
- シャピロ-ウィルク(Shapiro-Wilk)検定
- モンテカルロ分析
- アンダーソン–ダーリング(Anderson-Darling)検定
利用できない統計・解析
GraphPad Prismでは次の統計解析機能を備えておりません
- 因子分析
- クラスター分析
- メタ分析
- 多変量分散分析(MANOVA)
- Cochran-Mantel Haenszel検定
- 共分散(ANCOVA):2つの線形回帰直線の勾配と切片を比較することは可能です。
- ヨンクヒール-タプストラ(Jonckheere-Terpstra)検定
- スティール-ドゥワス(Steel-Dwass)検定:Prismでノンパラメトリック検定の多重比較をする場合、Dunn検定を用いることが可能です。
- スティール(Steel)検定:Prismでノンパラメトリック検定の多重比較をする場合、Dunn検定を用いることが可能です。
- マクネマー(McNemar)検定:GraphPad Software社が提供するQuickCalcsで行なうことが可能です。
GraphPad Prism9新機能:グラフ作成
グラフ軸タイトル・コントロール
GraphPad Prism9.2.0より、Y軸タイトルの回転と位置を指定するための新しいコントロールが導入されました。デフォルトでは、Y 軸のタイトル テキストは自動的に垂直または水平に割り当てられますが、テキストを手動で回転(リフレクト)して位置や方向を指定することも可能です。
カラースキームによる塗りつぶし
GraphPad Prism 9.2.0では、グラフの塗りつぶし方法に改善が加えられました。Prism9.2.0以降のPrismは、シンボルが見えるように透明度50%で塗りつぶしが適用されます。よりカラフルなグラフをデータに関する最も有用な情報を損なうことなく作成することができます。
グラフへのアスタリスク自動追加
Stars on Graph(スターズオングラフ)機能はグラフにアスタリスクやP値を追加する機能です。ワンクリックでペアごとの比較がグラフに追加されます。追加されたアスタリスクやP値はデータテーブルにリンクしているので、データを変更すると自動的にグラフにも更新されます。グラフに手動でアスタリスクを加えることも、データ更新にともなうグラフの再編集も不要です。
GraphPad Prism9より新たに追加された Stars on Graph機能は、データに対して適切な分析を実行した後にアスタリスク(またはP値)を含む直線やデータをグラフに自動的に追加する機能です。
Stars on Graph機能を使って、ペアの比較を自動的にグラフに追加できる分析手法はPairwise Comparisonをご参照ください。
ラーニングページのチュートリアルもご参考ください:ペアごとの比較をグラフに自動的に追加
多変量データから直接バブルプロットを作成
生データの変数を、X-座標とY-座標、色、大きさに変換したバブルプロットをデータテーブルから直接作成します。
Graph(a)

Graph(b)

Graph(a)では100カ国以上の国が個々の円として表示されています。各々の円のX-座標はその国のGDPを表し、Y-座標が生まれてからの平均寿命を表します。各シンボルの大きさは、それが表す国の人口に比例しています。それぞれのシンボルの色は、その国がある大陸を表しています。このケースでは、この最後の変数(色)はカテゴリー変数ですが、バブルプロットで色は連続変数としても定義することができます。
Graph(b)はシンボルのX-座標とY-座標と大きさは、Graph(a)と同じです。しかし、ここではシンボルの色はその国の出生率を1000人あたりの連続的尺度で表しています。
推定プロットによるt検定結果の可視化
t検定を実行すると、Prismは結果の推定プロットを自動的に作成します。
Graph1
95%CIにゼロが含まれる場合はP値は0.05より大きくなり、95%CIにゼロが含まれない場合はP値は0.05未満になります。
95%CIを見ることは、P値だけを見ることよりも役に立ちます。
Graph1では両方の群の生データは左Y軸でプロットされます。右Y軸では、群平均の差がその95%の信頼区間(95%CI)とともにプロットされます。測定プロットによる結果の視覚化によって、95%CIがゼロを含むかどうかに加え、95%CIの幅が示されるため、P値のみの場合よりも多くの情報を提供します。
GraphPad Prismのグラフ作成機能
GraphPad Prismはリリース時より、デザイン性の高い美しいグラフ作成機能に定評があります。データに直結した正確なグラフを見栄えよく作成でき、薬物の用量反応曲線(シグモイド曲線)のようなグラフも非常に綺麗に出力します。
データに直結したグラフ
GraphPad Prismは、データを入力すると自動的にグラフを作成します。データテーブル、解析結果、グラフが相互にリンクされており、データを変更した場合、自動的にグラフに変更が反映されます。
直感的なグラフ作成
グラフのプレビュー機能だけではなく、目的のグラフを選択する際、画像から目的のグラフを探せるようになっています。グラフの種類を視覚的に把握でき、より直感的に操作することができます。
グラフ編集機能
透明度、解像度、ファイル形式を詳細に設定してエクスポートすることができます。ベクター形式でエクスポートしたファイルを、画像編集ソフトで開き編集することも可能です。
GraphPad Prismカーブフィッティング:新機能
これまで残差グラフは残差 vs. Xプロットの1つしかプロットできませんでしたが、GraphPad Prism9では5つの残差グラフが可能になりました。 分析結果に含める残差グラフにチェックを入れるだけで、非線形回帰からこれらの残差グラフを必要な数だけ作成できます。
下のグラフはシミュレーションによるデータを使用し、 通常の方法で重み付けなしでフィットを行ったLog(用量) vs. 応答曲線の例です。Y値が大きいポイントほどバラツキの平均も大きいため、ランダムなバラツキが選択されました。注意深く見てみると、カーブの上部にある点がより散らばっているのがわかりますが、あまり明確ではありません。
残差グラフとの比較からもわかるように、モデルからのデータの軽度の偏りは、曲線とデータのプロットよりも残差プロットでの方が見つけやすいことが多いです。
Log(用量) vs. 応答曲線
残差 vs. Xプロット
残差 vs. Yプロット
等分散性プロット
QQプロット
実際の値 vs. 推定値のプロット
GraphPad Prismの非線形回帰機能
カーブフィッティングはデータ分析の際に重要なツールとはいえ、必要以上に複雑になってしまうことがあります。GraphPad Prismには様々な曲線の計算式が用意されており、計算式を選択した後はPrismがカーブフィットを行います。また、Prism を利用すれば、標準曲線から補間して未知の値を求めることも簡単です。
・・・
NIST(米情報標準技術局)では、統計解析ソフトウェアの信頼性を検証するテストプログラムおよびデータセット群(StRD)が提供されています。NISTの公開しているデータセット群を使い、Prismの非線形回帰(カーブフィッティング)に関する演算能力のテストを行ったところ、Prismによる非線形回帰の結果は、NISTのガイダンスにほぼ準拠する結果がでています。詳細は FAQ: Prismの非線形回帰機能の妥当性は?をご参照下さい。
GraphPad Prism9 システム条件
GraphPad Prism9のシステム条件は以下の通りです。インストール可能台数やライセンス許諾についてはFAQ:ライセンスについて をご参照下さい。
GraphPad Prism9 for Win
Windows で Prismがフリーズする問題が確認されています。問題の詳細と対処方法は FAQ0147:Windows 10(バージョン2004, 20H2および21H1)でPrismがフリーズする をご参照下さい。- Windows Vista, 7, 8,10,11 - 64bit版 (32bit版には対応していません)
- HD空き容量: 100MB
- 必要ディスプレイ解像度: 800 x 600以上
推奨 1280 x 1024 以上 - REM:
データセル200~800万: 4GB
データセル800万~1,600万:8GB
データセル1,600万以上:16GB
- Windows RT, Windows98, Windows2000, Windows XP, Windows NT では動作しません。
- Prismはローカル環境で利用されるように開発されており、Windows serverやZPA環境下での動作は保証しておりません。
- VirtualBoxやVMwareなどの仮想OS、Amazon WorkSpacesなどの仮想デスクトップ上での動作については保証しておりません。
GraphPad Prism for Mac
開発元ではGraphPad Prism9.0.1以降のバージョンであれば、Apple M1搭載のMac上で問題なく動作することを確認しております。KNOWLEDGEBASE - #219- Mac OS X 10.12 (Sierra)以降 - 64bit版 (32bit版には対応していません)
- MacOS 11.0 (Big sur)上のIntelチップ/Apple Silicon(Apple M1)の両方での動作確認が行われています
- HD空き容量: 130MB
- 必要ディスプレイ解像度: 1024 x 768以上
- Parallels DesktopやVMware Fusionなどの仮想OS、Amazon WorkSpacesなどの仮想デスクトップ上での動作については保証しておりません。
- Prismはローカル環境で利用されているように開発されており、クラウド(リモートアクセス)環境下での動作は保証しておりません。
旧バージョンのシステム条件は、GraphPad Prism旧バージョン情報をご参照ください。
Prism製品カタログ
GraphPad Prismのデジタルカタログをダウンロードいただけます。